桜のジンクス 《TABOO》


体育館へと続く廊下を歩いているとすれ違った男に目を疑った。

――何で彼がここに?

…八神一樹…
私と一緒に桜の木に彫った男だ。

私に気づいた彼は少し大人びた笑顔で迎えてくれた。

「久しぶり!…すごいな、今や世界の桐谷綾だ。」

「そんなことないけど…で、八神君は何でここに?」

「俺?俺は今ここで教鞭取ってるんだよ。」

「へぇ、先生になったんだ。ちゃんと生徒に教えてる?」

「はは、まぁ、一応ね。」

と頭を掻く彼に、あの頃の記憶が甦る。
照れ臭い時に頭を掻くのは彼の癖だった。

「じゃ、演奏、楽しみにしとくよ。」

と素っ気なく立ち去る彼に、ふと寂しさが込み上げた。

彼と別れたのは遠恋のすれ違い。
些細な喧嘩にお互い意地を張っただけだった。

彼の中ではもう過去の事なのだろうか?

まだ覚えていてくれてるのだろうか?

あの桜の木の下で誓い合った事を。

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