ユメのアト
「もしかさ、二宮さんじゃない?」

「え?」

私は驚いて、ケーキに釘付けだった顔をあげる。

「やっぱりそうだ」

彼、ケーキ屋の店員はにっこり笑ってそう言った。
大学の同期生だった。

「ひとり?」

「うん。今から彼氏の家に行こうと思って。お勧めのケーキとかある?」

「あるよ。っていうか、彼氏いるんだ?」

「うん……」

なんでだろう。あまりこの人に彼氏のこと話したくない。

「男の人って、甘いの苦手だろ?これお勧めだよ」

気にした様子もなく差し出すケーキはビターなチョコレートでコーティングされたもの。

「君もこれ好きなの?」

「好きだよ」

好きだよ――その言葉になぜかドキッと胸が高鳴った。
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