まほろば【現代編】
どうしたものか……。

ディスプレイにリュウの番号を表示してみる。

後は、通話ボタンを押すだけ。普段なら親指一つで気楽に押せるそのボタン。

だけど今の私は、左手で携帯を持って右手の人差し指が押そうかどうかとボタンの上を行ったりきたりしている。

ちょっと落ち着こう。

ここで一つ深呼吸。

深く息を吐いたとき、その反動で私の指がボタンを押していた。

「えっ、えっ、ちょっと。どうしよう!」

思わず携帯をベッドの上に投げだしてしまったが、静寂に満ちた私の部屋の中ではささやかなコール音さえ聞き逃せなかった。

あぁ、繋がっちゃった。

慌てて携帯を取り上げるよりも早く、何だか懐かしくも感じるリュウの声が聞こえた。

『ハルカ、どうした?』

リュウの第一声はそれだった。
< 113 / 702 >

この作品をシェア

pagetop