まほろば【現代編】
人のためというよりは、国のための神社なので参拝客というものを想定していない。

そのため、手水舎や拝殿はもちろん社務所なども設置されておらず、鳥居をくぐるとそれほど長くはない参道を抜けた先に本殿のみが建てられている。

普通なら本殿は人の踏み入るところではないが、中臣家の場合は例外だ。

本殿は、神霊(しんれい)――この場合は中臣家の人間自身――を奉る所である。

それほど広くもない板敷きの室の中央で正座をして精神の集中を行う。

それを、実際の儀式が始まるまで延々と続けた。何の前触れもなく、脳に直接響くような鐘の音が聞こえた。

それは、すべての準備が整った合図だった。

やおら立ち上がり、本殿の外へと出る。

本殿と鳥居のちょうど中間地点に位置する場所まで移動すると、足元に五芒星を描いた。

描き終ると空を見上げ月を確認する。

いつもよりも大きく感じる満月の力を取り入れるように両手を天にかかげてから印を組み再びの精神集中に入った。
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