まほろば【現代編】
「ありがとうございます。じゃあ、もう時間がないので……」

「ハルカちゃん」

大きくはないが強い言葉に遮られ、改めて紗綾さんの顔を見てしまう。

そこにはもう迷いは消えていた。

ただ、小さな後悔が浮かんではいるように見える。

「ハルカちゃん。ごめんなさい」

その言葉にきっと色んな意味が込められているんだろう。

それは、しっかりと私の胸の奥へと届いていた。

「いいえ。紗綾さん、気をつけて」

「ハルカちゃんも」

今度は自分から紗綾さんはイリネの元へと向かった。

別れの言葉は言わない。

言ってしまえば本当にもう二度と会えなくなってしまう気がするから。

それは、紗綾さんも同じだったんだと思う。
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