まほろば【現代編】
「どうぞ、紗綾。待ってたよ」

どう考えても、今の状況を打ち破るには紗綾の力が必要だ。

本当に紗綾が色々と手引きをしていたにしても、それは今言うことではない。

なるべく穏やかに見える微笑を作ったつもりだが、それでも紗綾はおずおずといった感じで部屋の中へと入ってきた。

そして入った瞬間、固まってしまった。

それはやはり、真人によく似たクロキのせいだろう。

紗綾の背中を軽く押しながら、部屋の中央に推し進めるとそこに座るように促す。

その間、紗綾の瞳がクロキから離されることはなかった。

座ってからもただ呆然とクロキを見ている。

「サアヤー。だいじょーぶ?」

ホムラが紗綾の目の前で手を振って見せて、やっと我に返ったようだった。

「えっ、えぇ……」

それでも、視線はクロキから離れない。
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