まほろば【現代編】
そう思えるだけの信頼を彼らには持っている。

だから、俺がやることは唯一つ。

ぐるりと辺りを一周見回してみる。

まずは、この空間を把握することが第一だ。

泉を中心として半径五百メートルほどの円柱形の閉鎖空間といったところだろうか。

空には大きな満月が浮かび、辺りはその月明りのみで照られているが、かなりの光量があるので不便は全くない。

泉の周囲には、大きな岩とも言えるものが疎らに数個配置されており、腰をかけるのにちょうどいいものから、大人の背丈よりも大きな岩まである。

泉の中央には、風が吹こうとも揺らぎもしない月の影が映し出されており、その少しずれた両脇に泉の守り神のような大きな木が聳え立っていた。

紗綾は、その右側の木の前に宙吊りにされている。

木に直接触れているわけではないので、どういったからくりで宙に浮いているのかはわからないが。

イリネが隠れるとしたら、その岩の陰か生い茂った木の葉の間。
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