まほろば【現代編】
ホムラが一瞬だけこちらを見たかと思うと、口を大きく開け炎を吐き出した。

それは見事なまでに、ツクヨミと紗綾を避け、張り巡らせれているクモの糸だけを綺麗に焼ききった。

それと同時に、戒めの解けた紗綾が泉目掛けて落下してくる。

泉に落ちる直前、白い風が駆け抜け紗綾を陸へと運んだ。

紗綾を背に乗せた白虎が、俺の側まで来てそっと紗綾を降ろし、再び戦いの渦中へと戻っていく。

地面に横たえられた紗綾の顔からは血の気が引いている。

口元に顔を近づければ、微かに息をしているのは確認できた。

「紗綾」

あまりの儚さに呟くような声しか出なかったが、そんな声でも紗綾の瞼が微かに震えそしてゆっくりと開かれた。

「紗綾」

今度は、もう少しましな声が出た。

「リュウ、くん」
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