まほろば【現代編】
イリネはそこで一旦言葉を切ると、忌々しそうな視線をこちらに向けてきた。

「中臣の坊ちゃんの力に少しでもなりたいって考えていた。だが、あのお嬢さんがその本来の力を発揮すれば、自分の存在意義などないに等しい。そう考えた。だから、あんたはあのお嬢さんをオレたちに売った」

「な、何を根拠に、そんな……」

先程とは違い、弱々しく震えの強くなった声で紗綾が呟く。

「別に、根拠なんてねーよ。ただ、あんたみてると、そんな感じがしただけだ。あんた、いつでも一点しか見えてないって感じだったからな」

「……」

もう、紗綾には言い返す気力もない様で、その場にへたり込んでしまった。

「紗綾ちゃん、今日は疲れたろう。とにかく今は、休みなさい」

父さんが、いつもと特に変わりない声音で紗綾に言葉をかけながら、その腕をそっと掴んで立たせた。

「それで、イリネ君。悪いんだけど、紗綾ちゃんを部屋まで連れて行ってくれないかね?」

「父さん!?」
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