まほろば【現代編】
色々と言い訳は言えただろうが、そんな言葉しかかけてやることができない。

腕の中の少女が、ギュッと抱きしめ返してくれた。

そして、顔を埋めたままくぐもった声が聞こえた。

「私のほうこそ、ゴメンね。リュウは、私のことを思って言わないでいてくれたんだよね」

どこまでも優しい子だな。

確かに、ハルカが悲しむのがわかっていたから言わなかった。

だけど、本当はハルカが悲しむのを俺が見たくなかった。悲しむ姿を見るのを少しでも遅らせたかった。

ただ、それだけだ。

また少しだけハルカは俺の腕の中で泣くと、何かを吹っ切るように笑顔を見せて帰っていった。

そして、ついにその日が来た。

夜空には、いつになく存在感を示している丸い月が浮かんでいる。

準備は、もうすでに整っている。

後は、儀式を行うだけ。
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