言葉なんていらない

深入りしてはいけない。


このまま何事もなく飲み会を終え、明日からまた普段通りの生活を送るのが正しい道だ。


「彼氏がいたなんて残念だな……」


彼はそう言うと、私の右手にそっと自分の手のひらを被せた。


重なり合う手を見つめていると、必死に抑えていた理性が揺らぎ始める。


今の彼と付き合い始めてから3年間、少ないながらも男性から誘いを受けたことだってある。


あの時だってこんな気持ちにはならなかった。


それなのに、今の私は彼に心を揺さぶられ理性より本能が勝ろうとしている。



「もう飲まないの?」


私にワイングラスを差し出してフッと微笑む彼と目があった瞬間、私の中でパチンっと何かが弾けた。


この人に抱かれたい。


この人に一度でも抱いてもらえるならば、それと引きかけに大切なものを手放してもいい。


抑えられない感情が私を簡単に飲み込もうとしている。





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