言葉なんていらない


このまま彼の差し出したワインを飲み干し、酒に酔った振りをして羽目を外してしまおうか。


いや、きっとそんなズルい考えは何の意味も持たない。


私はさっき会ったばかりの彼にこんなにも強く惹かれている。


そして、彼に早く抱かれたくて、こんなにも体中を熱くしているんだから。


私が黙って首を振ると、彼は全てを悟ったようにワイングラスを引っ込めた。



お開きの時間が近づき、周りがバタバタと帰り支度を始める。




私は隣に座る彼の目をまっすぐ見つめた。


彼もまた黙って私を見つめ返す。


数秒間、私たちは黙って見つめ合った。


そして、私たちは周りに気付かれないようにどちらからともなくそっとテーブルの下で指を絡ませ合った。


私たちにはもう、何の言葉もいらない。


二人の指先はこれから訪れる甘い時間の幕開けをすでに予感させていた……。






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