For 10 years
「ママ、ねんね?」



突然、蒼太くんが聞いてきた。


その瞬間、蒼太くんの目から涙がぽろぽろと溢れてきた。



「蒼太くん?」



そして蒼太くんは「ママ!ママ!」と言いながら、絢華ちゃんの体を揺すり始めた。


目を覚ました絢華ちゃんが、蒼太くんを目に留めたとたん、ぎゅっと抱き締めた。



「蒼太、ごめんね。ママはちゃんといるよ」



絢華ちゃんが、眉をハの字に下げながらそう言っているのを聞いて……


ああ、……そうか……


蒼太くんの脳裏には、優太くんの姿が焼き付いているんだ。


何度呼んでも、どれだけ揺すっても起きなかった優太くんの姿が――


一才の子供が、こんな思いを抱えているなんて……


俺まで胸が痛くなってくる。



「隼人さん、ありがとうございます」


「いや、……可愛いな……」



ベッドの上で、スヤスヤ寝ている赤ちゃんを見てそう口にする。



「そうでしょ?この子も、優太にそっくり……っ」



そう言いながら、絢華ちゃんの目から涙がほろりとこぼれた。



「あ、また泣いちゃった」



そう呟きながら、絢華ちゃんは涙を拭いた。
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