For 10 years
「蒼太、今日は隼人さんの言うことを、ちゃんと聞くんだよ?」


「ママ、いっしょ?」


「ママはね、赤ちゃんとお泊まり」



絢華ちゃんがそう言ったとたん、蒼太くんは絢華ちゃんの服をぎゅっと握って、首を横に振りながら何度も「いーや」と叫んだ。



「蒼太、ママが退院したら、毎日一緒に寝るからね?蒼太はここにお泊りできないの。わかる?」


「ママ、いっしょ!」



蒼太くんはママと一緒がいいと言い張っている。


当たり前だ。


まだ一才の子供が、親から離れるなんて平気なわけがない。


それに、今はパパが亡くなって、心の中は不安で一杯のはずなんだ。


そんな蒼太くんを元気付けたくて、俺なりに話しかけてみる。



「蒼太くんは、食べ物だったら何が好き?」


「バーグ!」


「バーグ?」



何のことかわからず首を傾げていると、絢華ちゃんがそれを教えてくれた。



「隼人さん、ハンバーグのことです」


「ああ、ハンバーグか。……なあ蒼太くん、今日は俺と一緒にハンバーグ作らねぇ?」


「バーグ?」


「ん、こうやって手でコネコネしながら……」



そう言いながら、肉をこねる真似をする。


そしたら……



「バーグ!」



そう言いながら、俺の胸に飛び込んできた。
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