For 10 years
「わかってるよ、わかってる。……今はそれよりも、俺がただ、絢華ちゃんの傍にいたいだけなんだ」



そうなんだ。


ただ傍にいて支えてやりたい……


その思いが強いんだ。



「隼人さんっ」


「絢華ちゃん、ゆっくりでいいから、ほんとに少しずつでいいから、俺のことを考えてくれるようになってくれたら、……嬉しい……」



絢華ちゃんは見るからに困った顔をしている。


でも俺は、絢華ちゃんにそんな顔をさせたいわけじゃない。



「絢華ちゃん?困ってるよな?」


「えっ、あ……」



やっぱり、困ってる。



「じゃあとりあえず今のままでいい。プラスαで、ちょっとだけ意識してくれたら嬉しいかも」


「隼人さん、ありがとう。すぐには無理だけど、あたしもちゃんと前を向いて歩いていかなきゃって思ってるから、少しずつ……でいいなら」


「ん、それで充分」



“少しずつ”……


この時は……


ほんとにそれで充分だと思っていたんだ。




でもまさか、あんなにあっさりと……


絢華ちゃんの心が動くなんて……


思いもしなかった――…
< 61 / 119 >

この作品をシェア

pagetop