For 10 years
絢華ちゃんを抱き締めていた男……


あの時の。


思わずジッと見てしまった。


絢華ちゃんは、その腕からするりと抜けると、こっちを見た。



「あ、隼人さん。店長に早くあがらせてもらったの」


「知ってる。大丈夫かなと思って見に来た」


「あ、大丈夫だよ」


「そうみたいだな」



きっと、その男が絢華ちゃんの傷を癒してくれているんだろう。



「絢華さん、アパートまで送るよ」


「……うん、ありがと。じゃあ隼人さん、また明日」


「ん」



彼の車に乗り込む絢華ちゃんを見て、きっと絢華ちゃんにとって、彼が特別な人になりつつあるんだろうなと思った。


もしかしたら……


もうそういう関係なんだろうか。



八年という長い期間、片想いをしているせいか、あの時……


優太くんと付き合ってるって知った時よりも、遥かに胸が痛かった。
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