音と夢の羽
徐々にその考えも変わっていった。

なにも楽しくなかった世界が少し色づいた。

楽しかったんだ。

ただ、ただ、

ピアノが、音楽が、楽しかった。

わたしには友達が居なかった。

話す相手さえほとんど居なかった。

だけどね、音があったから、別に友達がいなくとも、満足だったのかもしれない。

ピアノを練習する時間は苦じゃなかった。

全く人と喋らないくせに、歌をうたうのが大好きだったの。

滝廉太郎の花を父に教えてもらって、
たくさんたくさん歌った。

でも人に聞かれたくないから、こっそりトイレで歌った。

その時は、それがわたしの1番大切なものになるなんて思ってもいなかったの。

だってね、この時が無くなるなんて夢にも思わなかったから。

これが私の最初の音との出会いだった。

私はどんどん音に導かれていった…

これからもずっと…ずっと…

そう、ずっと音楽と一緒である毎日が当たり前だと思っていたの。

大切なものはね、いつも近くにあるんだよ。

気づかないものほど…

当たり前のものほど…

失いやすい。

そして、1番大切なものだったりするんだよね。

今、やっとわたしは気づいたよ。

ねぇ、もう遅いのかな…?
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