初恋メランコリック
「どうかした?」




早乙女さんの優しげな声があたしに語りかける




「…いや、なんでもない」




あたしはとっさに笑いながらそう答えた


だけど彼がそれを見逃さないわけが、ない


華奢な眼鏡の奥に潜む瞳が、あたしをじっと捉える。まるで、獲物に目を光らせたように

でも、そんな隙を彼が見せたのはほんの一瞬で




「……そっか。じゃあ、何かあったら僕を呼んでね?俺の部屋は茉奈ちゃんの隣だから、」




そう言って早乙女さんは、またいつものニコニコとした笑顔を見せた




「早乙女さんは、何か忘れたい事とかある?」




少しだけ、カマをかけてみる
そう、ほんの少しの好奇心と興味




「………それは、どういう意味かな?」




早乙女さんは、少し困ったような顔をしてそう言った


あたしには小さな確信があった

早乙女さんは、何か闇を抱えてる。そう、今日初めて会った時から感じていた



周りから見れば彼の爽やかスマイルも、今ではただの愛想笑い


それは彼なりのポーカーフェイスで

気付いて、というサインにも感じる




「そのままの意味ということで」



「…それは、なかなか難しいな」




こんな場合でもポーカーフェイスを崩さない彼は、なかなかの強者だ


伏せ目がちの瞳には、切なさが



早乙女さん、


あなたは、一体何をそんなに隠そうとしているの?
あなたは一体、何に気付いてほしいの?


みんなの前でもそんなに隠そうとしているのなら、疲れるでしょう?

せめて、本音を出せる居場所を見つけなきゃ




「茉奈ちゃんは優しいんだね、」



「…別に、そんなことないよ。でも、あたし早乙女さんのそのエセスマイルだけは見たくないな」



「エセスマイルって…ひどいなぁ。茉奈ちゃんにはバレちゃったかな?」



「……さぁ、あたしって秘密主義だからねー」




困ったなぁ、と言わんばかりの表情の早乙女さん
でもまだ余裕があるみたい


ここで焦らしても許されるだろう



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