棚の向こう側
「お待たせ」
身なりを整えて、古書を手にテーブルに戻ってくる。
「お帰り、ありがとう。すぐ見つけられなかっただろ」
古書や資料を広げてノートに向かっていた彼が、私から古書を受け取って、すまなそうに言った。
「うん、ちょっと探しちゃった」
「ありがとうな、いつも」
私の彼氏は時代小説家だ。
仕事が休みの日、私は彼と近くの図書館に来る。そこで彼の手伝いをするのが日課だった。
彼が必要としている資料は難しくて、それがある一角には人気がない。
あの彼と出会ったのは、三か月ほど前。
あの甘い声と切れ長の瞳に、夢中になった。