若き店主と囚われの薔薇
「…あの娘、とは?」
「真っ赤な髪の…来たでしょう、二ヶ月ほど前に。あなたのところへ」
…そのとき、確かに私の中で、何かが壊れていく音がした。
意地でも信じ続けていた、大切な何か。
きっとそれは、絶望という名前で。
…嘘、でしょう?
私がエルガの店へやってきたとき、私を連れてきたふたりの男が、クエイトの従者だったのは本当だ。
だけど、だけど。
『クエイト様の、命令だ』
あの言葉を私は、信じたくなかったのに。
本当に、あなたが私をここへやったというの?
「…ああ、元気ですよ。とても」
エルガの落ち着いた声が、耳の奥に響く。
クエイトは抑揚のない声で、「そうですか」と言った。
それから続く彼の言葉を、私は信じられない思いで聞いた。
「あの娘は、容姿が気に入って買ったのですがね。ほら、赤髪は珍しいでしょう。しかも、あんなに美しいのは滅多にない」
「…そうですね」
「最初は、眺めているだけで気分は良かったのですが。…気づけば随分と、懐かれていました。そのうち、煩わしくなりまして」
どうか、お願い。
誰か、これは夢だと言って。