若き店主と囚われの薔薇
こんなの、信じたくない。
信じられない、信じていい、はずがない。
愛したひとが、私を『愛してる』と言った唇で。
私を、『愛していない』と言っている。
これは、夢だ。そうだ、そうに違いない。
そうでなければ、私が今まで生きていた意味は、どこにあるというんだ。
なんのために私は、ここにいるんだ。
「どうしようかと迷っていたところで、ラルドス、あなたの顔が浮かんだ。あなたの店でなら、他の店よりは、人間らしい暮らしができるでしょう」
「…そのように心配なさるのでしたら、手紙か何かお送りしましょうか。あの娘の様子を、逐一」
「はは。流石にそんなものはいりませんよ」
そして、彼は。
私がいちばん聞きたくなかった言葉を、口にした。
「…もうあの娘は、私のものではありませんから」
ーーパキッ。
思わず動いた足が、地面に落ちた木の枝を踏んだ。
ハッとしたふたりが、こちらへ振り返る。
「……!」
…先に目があったのは、エルガだった。