若き店主と囚われの薔薇
彼は私の姿を見るなり、目を見開いた。
そして次の瞬間、気まずそうな顔をする。
ーー…知っていた、くせに。
どうしてそんな顔、するのよ。
「………っ!」
クエイトの顔は、見れなかった。
苦しくて仕方なくて、彼らに背を向けて走り出す。
「……ロジンカ!」
エルガの、声だった。
少ししてから、彼が追ってくるのに気づいたけれど、私は振り返らなかった。
…嘘よ。
こんなの、嘘。
絶対、嘘!
瞳からこぼれてくる涙が、悲しくて悔しくて、仕方がない。
真っ暗な森の中を、私はただひたすらに走り続けた。
…お願い。
誰か、これは夢だと言って。
*
聞かれた。
よりによって、ロジンカに。
何故、あそこにいたのか。
いつから、俺達の会話を聞いていたのか。