若き店主と囚われの薔薇


「…申し訳ありません、ビストール様。今夜は、これで失礼します」


俺は頭を下げると、宝石の入った鞄を閉じた。

クエイトは、先程までの明るい口調とは全く違う、沈んだ声色で「ああ」と返事をした。


…俺は鞄を持って、ロジンカを追いかけた。







「…ロジンカ!」


彼女の足は思っていたより遅く、すぐに見つかった。

パシ、と細い腕を掴み、引き止める。

暗い森の中、ロジンカは息を切らして立ち止まった。


「…何も考えずに走るな。テントへ戻れなくなる」

「………」


彼女はしばらくの間黙っていたが、やがて喉の奥から絞り出したような、低い声で言った。


「……離して」


俺に、背を向けたまま。

ロジンカは、俺を拒絶した。


「…………」

俺は、手を離さない。

離せばきっと、この少女はまた走り出すだろう。



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