若き店主と囚われの薔薇
「…申し訳ありません、ビストール様。今夜は、これで失礼します」
俺は頭を下げると、宝石の入った鞄を閉じた。
クエイトは、先程までの明るい口調とは全く違う、沈んだ声色で「ああ」と返事をした。
…俺は鞄を持って、ロジンカを追いかけた。
*
「…ロジンカ!」
彼女の足は思っていたより遅く、すぐに見つかった。
パシ、と細い腕を掴み、引き止める。
暗い森の中、ロジンカは息を切らして立ち止まった。
「…何も考えずに走るな。テントへ戻れなくなる」
「………」
彼女はしばらくの間黙っていたが、やがて喉の奥から絞り出したような、低い声で言った。
「……離して」
俺に、背を向けたまま。
ロジンカは、俺を拒絶した。
「…………」
俺は、手を離さない。
離せばきっと、この少女はまた走り出すだろう。