若き店主と囚われの薔薇


「…私は、愛されてなんかいなかった。とうの昔に私は、…見捨てられていたんだわ。クエイト様に」

その、鮮やかな赤い瞳を見開いたまま、涙をこぼす。

透明な雫は白い頬を伝い、やがて、落ちた。

「愛されていたと、思ってた。どうか愛されたままで、いたかった。…私は愛されていたのだと、信じてた…」

手のひらを、ぎゅっと握りしめて。

ロジンカは顔を上げて、俺を悲しみに揺れた瞳で見つめた。


「私はもう、クエイト様のものじゃなかった…あの方の、薔薇だったのに。あの方の愛で色づく、薔薇だったのに」


…薔薇の少女が、色を失っていく。

目の前で、俺を見つめて。

…音を、立てて。



「…無理よ、生きていくなんて。私はもう、クエイト様の愛のもとでしか、咲けないのに…!」



…けれどここに、彼女の望む愛はなくて。

薔薇は段々、枯れていく。

色を失い、音を立てて、パキリと。

…はらはらと、花弁は落ちていく。



寂しさにどんどん、死んでいく。












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