若き店主と囚われの薔薇
『いいじゃないか。運が良かったな、クエイトどの。私達が来たときに、こんなに良い品があるとは』
『……ええ』
『まるで、林檎のような髪だ』
林檎。
…いや、そうは思わないが。
林檎というよりは……
『…名前は?』
声をかけたのは、ほんの気まぐれだった。
こんな場所に連れてこられて、僕の機嫌はすこぶる悪かったから。
出てきた声は、とても低いものだった。
僕の言葉に、少女が目を見開く。
よろよろと起き上がってくる様を、僕は苛立った瞳で見ていた。
僕は赤髪の少女に尋ねたつもりだったけれど、勘違いした奴隷商が先に口を開いた。
『ああ、その娘に名前はありません。ろくに口も利きません。どうやら記憶を失っているようで、名前も言おうとしないのです』
…なるほど。
少女の赤い瞳が、こちらを見つめてくる。
髪も目も、真っ赤な少女。
記憶を失った、哀れな奴隷。
林檎というより、この色は。