若き店主と囚われの薔薇
『…へえ。これはこれは』
意味深に、侯爵が笑う。
僕自身も、驚いていた。
数分前まで、なんの興味もなかったのに。
この少女が僕の言葉次第で、その赤をもっと綺麗に色づかせるかもしれないと思うと、胸の奥がざわついた。
『…ビストール様、では…』
期待に目を輝かせた奴隷商が、僕の顔を見上げてくる。
僕はそちらには目もやらず、少女を見つめたまま、『ああ』と返事をした。
『………………』
赤髪の彼女は、僕を信じられないという瞳で見ている。
僕は静かに、そっと、手を差し出した。
『…君は今日から、僕のものだ』
それはまるで、魔法の呪文のように。
薔薇の少女を、美しく色づかせた。
*
差し伸べられたその手が、とても優しく、暖かかったのを覚えている。
その手をとった瞬間、私は何故だか泣きたくなった。