若き店主と囚われの薔薇


『…へえ。これはこれは』


意味深に、侯爵が笑う。

僕自身も、驚いていた。

数分前まで、なんの興味もなかったのに。


この少女が僕の言葉次第で、その赤をもっと綺麗に色づかせるかもしれないと思うと、胸の奥がざわついた。



『…ビストール様、では…』

期待に目を輝かせた奴隷商が、僕の顔を見上げてくる。

僕はそちらには目もやらず、少女を見つめたまま、『ああ』と返事をした。


『………………』


赤髪の彼女は、僕を信じられないという瞳で見ている。

僕は静かに、そっと、手を差し出した。



『…君は今日から、僕のものだ』



それはまるで、魔法の呪文のように。

薔薇の少女を、美しく色づかせた。







差し伸べられたその手が、とても優しく、暖かかったのを覚えている。

その手をとった瞬間、私は何故だか泣きたくなった。



< 114 / 172 >

この作品をシェア

pagetop