若き店主と囚われの薔薇
記憶はないのに、いや、ないからこそ、久しぶりに感じた人肌が、懐かしく感じられたのだ。
これはきっと、運命。
彼に、『薔薇』としての私を見出されたこと。
インカローズは、『運命のひとを引き寄せる』石。
その名にふさわしいよう、彼のためになれるよう。
色んなことを覚えた。
歌をたくさんうたった。
彼のために笑い、泣き、幸せを語った。
クエイト様が、赤髪を撫でて下さる。
それだけで、この髪は役割を持つ。意味あるものになるのだ。
彼が、私の名を呼ぶだけで。
薔薇は緩やかに花開き、鮮やかに色をつける。
私は彼を、心の底から愛していた。
*
「…いい加減、泣き止まないか」
エルガが隣で、呆れた顔をしてこちらを見てくる。
私は無視をして、みっともなく泣き続けた。