若き店主と囚われの薔薇


あれから私とエルガは、テントへ戻ることなく、近くの湖のほとりに並んで座っていた。

私は、飽きることなく泣き続けている。

エルガは、そんな私の隣に座って、ただただ湖を眺めていた。


「…そんなに、悲しいか」

「………ええ」

「この先、生きていきたいと、少しも思わないのか」

「……………」


…わからない。

ず、と鼻をすすって、俯いていた顔を上げる。

湖に、情けない表情をした自分の顔が映っていた。



「…だって私はもう、薔薇じゃないもの」


あの方の愛で咲く、たったひとつの薔薇だった。

彼の愛を失った私は、もう薔薇などではない。

ただの、女だ。

故郷も、親も、記憶も失った、哀れな女。


…自分が誰なのかも、わからない私には。


生きる意味を、見つけることができない。



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