若き店主と囚われの薔薇
「……クエイト様は…ずっと、私のことがお嫌いだったのかしら」
「………」
『煩わしくなった』、と彼は言っていた。
私が彼のもとで過ごした数年余り。
彼にとっては、鬱陶しいものだったのだろうか。
けれど、私が従者たちにエルガの店へ放り込まれる、その前日の夜まで。
彼は全く変わらない態度で、私に『愛してる』と言った。
…ああ、でも少しばかり、声色が寂しそうだったかもしれない。
低く、かすれた声で、私の赤髪を撫でながら、彼は囁いた。
やさしい、やさしい、愛の言葉を。
「…………」
ああ、駄目だ。
思い出すと、涙があふれてくる。
ねえ、クエイト様。
あなたは本当に、私を愛していらっしゃったの?
与えて下さった言葉の数々は、全て嘘だったのではないの?