若き店主と囚われの薔薇
『君は、綺麗だね』
…覚えているわ、私。
あなたが私にくれた、いちばん最初のやさしい言葉。
記憶もないのに、あんなにも心が掴まれたのは、生まれて初めてだと思った。
ぜんぶ、ぜんぶ、覚えてる。
あなたが私に下さった言葉は、ひとつ漏らさずぜんぶ。
「………ロジンカ」
再び泣き始めた私を、エルガが呼ぶ。
…やめて欲しい、もう。
その名で、私を呼ぶのは。
「…薔薇でなくとも、お前はお前だ。たったひとりの、人間だ。…生きる意味なんて、そのうち自ずと見つかる」
「…クエイト様のものでなくなった、私に価値はないわ。彼のもの、ただそれだけだった。私は今、何者でもない。それが怖いのよ」
「…………」
自ずと見つかる、なんて、簡単に言わないで。
そんなもの、存在価値すら見出せない私には、到底無理な話なのに。