若き店主と囚われの薔薇


…彼のもの。

ただ、それだけの存在だった。

それを、彼に否定された。

だから私は今、自分が何者であるのかわからない。


…そんなことすらわからないのに、生きる意味なんて、見つかるはずがない。


湖の水が、風でゆらゆらと揺れる。

雲間から覗いた月が、水面に歪んで映った。



「……お前は、自由だ」


エルガが、ぽつりと言った。

いつかに聞いたものと、同じ言葉だった。


「これからどんな人間として、どう生き、誰と出会い、何をするのか。全て自分で決められる。今、何も持っていないからこそ、お前は何よりも自由だ」


…これから。

どんな人間として、どう生きるのか。



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