若き店主と囚われの薔薇


彼に、ロジンカとしての生を与えられたから。

そのままロジンカとして、一生を終えたい。

やっぱり彼は、運命のひとだったのだろうか。


…出会わない方がよかった、なんて、思わないもの。



「………そうか」

エルガは私の答えに、一度だけ安心したようにフッと笑った。

そしてまた彼が前を向くと、私達の間に沈黙が落ちる。


…涙は止まったけれど、テントへ戻る気にはまだなれなくて。


これからどうするのか、生きるとしたら、何のために生きるのか。

考えなければならないことは山ほどあるのに、今は何も考えたくなかった。

湖をぼうっと見ていると、おもむろにエルガはあの鞄を取り出した。


「…あなた、流石ね。私を追いかけてくるときにも、ちゃんとその鞄は持って来てたのね」

「当たり前だ。お前の命なんかよりよっぽど大事なものだからな」

「…………」

そうでしょうね。

わかっていたけれど、直接言われるとそれなりに腹が立った。


「…………」

暇になったからか、エルガが膝の上で鞄は開き、宝石の手入れを始める。

私は気にせず湖を眺めていたけれど、視界の端であの翡翠が見え隠れして、結局視線はそちらへ向かった。



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