若き店主と囚われの薔薇


「…ねえ」

「なんだ」

「…その翡翠、誰かからの贈り物?」

翡翠が収められた場所を指差す。

エルガは静かに、「いや」と否定した。



「俺が贈ろうとしていたものだ。…もう、二度と渡せないがな」



…二度と、渡せないって。

「どういうこと…?」

「…お前が俺の店へ来る五ヶ月ほど前に、売れて行った。それからどうしているのか、生きているのかさえわからないからだ」

エルガの言う、その人物を想像して、驚いた。

まさか、それは。


「…奴隷に、渡そうとしていたの…?」

「…………」


エルガは静かに、目を伏せる。

私は予想もしていなくて、言葉を失った。


…このひとが。

奴隷に、贈り物を。



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