若き店主と囚われの薔薇


「虚構と建前ばかりの社交界に疲れていた僕は、この子の素直な反応が、とても好きでした。僕の言葉に耳を傾け、いつも嬉しそうにしてくれる…ロジンカは、僕の支えだった」


…この少女は、いつもまっすぐだ。

知りたいことがあれば、遠慮なく聞いてくる。

間違っていると思えば、真っ向から反論してくる。

悲しければ泣き、嬉しければ笑う。

彼女の言葉は、全てが真実だった。


クエイトが、ロジンカを確かに愛していたことは、俺でもわかった。

ならば何故、手放したのか。


クエイトは目を伏せ、「僕が」と言う。

その声はとても低く、苦しげで。

子供達…特にテンは、クエイトの話を、曇りない瞳で聞いていた。


「僕が、弱かったから。この子を、ここへ置いて行くことになってしまった」


…ロジンカと、クエイト。

奴隷と、主人だったもの達。


かつて愛してあって生きていた、ふたりの男女の話。



< 134 / 172 >

この作品をシェア

pagetop