若き店主と囚われの薔薇
「嬉しいからだ。君はもう、ひとりで歩くことができる。僕がいなくても」
…待って。
そう言う前に、彼は私の目の前から消えていく。
スゥ、と、どんどん透明になっていく。
どうして、消えてしまうの。
あなたがいなくては、私は生きていけないのに。
「いいや、君は生きていける。強く、強く。君の薔薇は、まだ咲いている。確かに、そこに」
目を見開く私の唇に、彼はそっと、口づけを落とした。
…儚い、触れ合い。
その瞬間、私の中に何かがじわりと広がって、やがて馴染んでいく。
彼が消えていくとともに、辺りの空間はまた白く戻った。
…私の周りには、もう何もないけれど。
不思議と、不安な気持ちは消えていた。
*
「おはよう、ロジンカちゃん」
朝。
目が覚めて、いちばんに視界に飛び込んできたのは、もう見慣れたテンの顔だった。