若き店主と囚われの薔薇
そうして手のひらに置かれたのは、翡翠のものに似た形の、赤い石のペンダントで。
…私、知ってる。
この赤を、知ってる。
「…インカローズ…」
つぶやくと、エルガは「ああ」と満足気に言った。
「俺から旅の餞別だ。…生活に困ったら売るなりして、有効に使えよ」
エルガの言葉に、私は小さく笑った。
そんなこと、できるわけがない。
だってこれは、証でしょう。
私が『ロジンカ』で、エルガの友人であるという、証。
「ありがとう、エルガ」
頬を伝う涙は構わず、私は笑った。
こんなにも心の底から、他人に礼を言うのは今日が初めてだ。
私は最後にもう一曲だけうたって、子供達にも礼を言った。
テンは最後まで、泣き続けていた。
…私。
ここで、皆に会えてよかった。
子供達が寝静まった深夜、私はエルガのテントへ行った。