若き店主と囚われの薔薇
『彼ら』が今も生きていてくれたことは嬉しかったが、まさか同じ裏の世界で生きる『依頼屋』だとは思わなかった。
…『彼女』は、エルガの依頼屋を出てから、一体どのような道を歩んで、この世界に来たのだろう。
尋ねたいことは、山ほどあった。
人の多い街を走り回りながら、辺りを見回す。
…情報があったのは、この街のはずだ。
まだこの街に、滞在していてくれれば良いのだけれど。
私が走る度、すれ違う人々が振り返る。
肩口まで切った赤髪が、ゆらゆらと揺れる。
幾度となく頭の中に思い描いた、『その色』。
ふと振り返った瞬間…人々の隙間から、それが、見えた。
「…ファナさん!」
考えるより先に、口から声が出た。
この数年間、何度も何度も思い出し、けれど一度も『そのひと』へ向かって呼ぶことの出来なかった、名前。
エルガが名付けたというその名前の『彼女』は、もう別の名に変わってしまったと聞いた。