若き店主と囚われの薔薇
気づいてくれるだろうかと不安になり、いいや何度でも呼んでやると思い直し、また口を開く。
…けれど『彼女』はしっかりと、こちらへ振り返った。
「…ファナ、さん。ファナさん!」
泣いてしまいそうだった。
何年も探し続けたひとが、今、すぐそこにいる。
もう一度名前を呼ぶと、『彼女』は驚いた顔をして、今度こそ立ち止まった。
すれ違う人々の間をかき分けて、そちらへ向かう。
「…っ、」
そして、一歩足を踏み出して。
そのひとの目の前に、辿り着いた。
「……っ、あ、あの、ファナ、さん、ですよね…?」
息を整えながら、碧色の『彼女』を見上げる。
そのとき、ああこのひとだ、と思った。
…エルガの言っていた通り。
碧色の美しい髪に、橙の瞳を持った女性だった。