若き店主と囚われの薔薇


「…うそ。エルガ…?」


…覚えていた。

彼女もちゃんと、エルガのことを。

それが嬉しくて、私は笑顔で「はい」と頷いた。

首から下げている翡翠のペンダントを取り出そうとすると、深緑の彼…ルトが、驚いたように「え」と声を上げた。


「ジェイド、エルガって…?」

「…ルトが私を買った奴隷屋の、オーナー」

「…え、あ…ああ!あの人!」


思い出した思い出した!とルトが叫ぶ。

…本当に、明るいひとだ。


「…へぇ。あの店主から…なんの届けもの?」


私は、首元からペンダントを取り出した。

出てきた翡翠に、ジェイドが目を見張る。


「これです」


手を出して、と言うと、おずおずと白い手がこちらへ伸びてくる。

ペンダントをその手のひらに置く瞬間、エルガがインカローズを渡してくれたときを思い出した。


…エルガ。

エルガ、エルガ。

彼女の手のひらに翡翠が触れたとき、私の手が震えた。

手だけでなく、心の底から、震えるような感覚がした。



< 157 / 172 >

この作品をシェア

pagetop