若き店主と囚われの薔薇


「私、『届け屋』になる前は、奴隷だったんです。エルガの店の」


席に座って、話し始める。

ジェイドとルトは、『奴隷だった』という私の言葉に、とても驚いた。

「奴隷だったって…そこから、届け屋になるのは大変だっただろ」

「そう…ですね。ひとつ前の依頼所のオーナーには、本当にお世話になりました」

「すげえな……」

ルトが、感心したように頷く。


…届け屋の場合、依頼所に雇われて仕事をする。

つまり、依頼所のオーナーや他の同業者に世話にならなければ、仕事など回ってこないのだ。


「今でこそ、届け屋として動いていますが…エルガの奴隷屋を出てから一年は、歌をうたって稼いだりしました」


依頼所へ辿り着くまでは、路上で歌をうたい、それでわずかながらに得た金で生活した。

私の歌を聞き、褒め、金をくれる優しい人はたくさんいたが、そうではない人もいた。


…思い出すと、苦しかった、としか言えない一年。

それでも、今となっても良い思い出だ。



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