若き店主と囚われの薔薇
まだ七歳か八歳のウーノに、気の利いたことなど言うのは難しい。
それをわかった上で、貴婦人は尋ねている。
正解は誰にも、俺にもわからないし、もちろん貴婦人も、用意はしていないのだろう。
ウーノは少しの間だけ女を見つめたあと、口を開いた。
「…赤い、口紅」
答えるというより、それはまるでつぶやきのようだった。
女はその言葉を聞いて、驚く。
「そう。それは、どうして?」
「…お母さんが…よくしてた、から」
母。
…ウーノが、この世界に染まった今でも、彼の心の片隅に棲み続ける唯一の存在だ。
自分を捨てたはずの親のことを、彼はまだ忘れられないでいる。
女はウーノの返事に、唇の端を上げた。
「…そう。あなたのお母さんが…」
その顔は、恍惚としていて。
女は、俺の方を見た。
その視線の意味を汲み取ると、俺は返事の代わりに目を伏せる。