若き店主と囚われの薔薇
女は支払いを済ませると、ウーノの手を引いて店を出て行く。
彼らの姿が見えなくなる直前、ウーノはこちらへ振り返った。
皆が見つめる中、彼は空いている手で小さく手を振る。
そこには、嬉しそうな笑顔があった。
子供達はうんうんと頷いたり、『頑張って』と唇を動かしたり。
……ただひとり、隅でその様を見ている少女だけが、目を見開いていた。
やがて馬車が店の前を去ると、テント内が静まり返った。
「…ウーノ、行っちゃったね」
「寂しいね」
「でもよかった」
「ウーノはいちばんおにいちゃんだったもんね」
悲しそうな顔をしながらも、子供達はよかったよかったと顔を見合わせる。
だが、そんな雰囲気を破る声が響いた。
「…こ、こんなのおかしいわよ!」
子供達が一斉に、驚いた顔で振り向く。
視線の先にいるのは、赤髪の少女。
「どうして…どうして『よかった』なんて言えるのよ!全く知らない人に連れていかれて、この先どうなるかわからないのに…!」
…子供達は、困惑していた。
どう返せばいいのかわからないのではなく。
どうしてそんなことを言われているのか、わからないのだ。