若き店主と囚われの薔薇
だが、今度は俺も止めない。
今日のような、奴隷屋の普段の様子を見て、それで無理だと思ったのなら。
…出て行こうが、そいつの自由だ。
俺に止められないとわかり、少女の足取りに迷いは無い。
…だが、その足を止めんとする者がいた。
「ま、待って!」
呼び止めたのは、テンだった。
必死な顔をして、赤髪の少女のもとへ走り寄る。
足を止めた少女は、眉を寄せて振り返った。
「待って…行かないで」
震えた声が響き渡り、少女はさらに眉を寄せる。
何故止められなければならないのか、という顔だ。
「…っわたしは…」
「いっ、今から出るのは、危ないよ。外はまっくらだし、な、なんにも、なんにも見えなくて、きっと怖いよ」
一生懸命に喋るテンに、少女が思わず口をつぐむ。
握りしめたテンの手は、震えていた。