若き店主と囚われの薔薇


……恐らく過去に、狼に怯え、森の中を逃げ惑った記憶があるのだろう。

他人事とは思えないほど、テンの瞳の恐怖は、リアルだった。



テンの訴えに、赤髪の少女は唇を噛んだ。

考え込むようにうつむき、やがて目をきつく閉じる。


「……どうして」


絞り出された声は、押し殺したような苛立ちを含んでいた。


「どうして、私の心配していられるのよ!自分たちだって、友達がいなくなって悲しいんじゃないの!?」


少女の顔には、悔しさや屈辱、もどかしさなどの様々な感情がにじんでいた。

テンや他の子供達は、目を見開いて彼女を見ている。


「同情なんかであなたたちに心配されたって、なんにも嬉しくない!昨日だって、パンはあんなに少ないのに、私よりずっと痩せてるあなたにもらったって、受け取る気になれないわよ!」


赤髪の少女の瞳に、じわじわと涙がたまる。

…苛立ちと、歯痒さと、悲しみと。

そんな感情の中で、彼女は揺れ動いていた。



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