若き店主と囚われの薔薇
「…ま、待って!嘘でしょう!?」
必死な叫びを無視して、彼らは貧しい人々の行き交う通りへ、姿を消した。
「嫌よ、待って!…嘘よ、そんなの…!」
彼女がぎゅっとドレスを握りしめ、俯いたのを確認すると、俺は席を立つ。
久々の客の登場に怯えている子供達に、「もういいぞ」と声をかけた。
俺の言葉を聞いた瞬間、子供達はホッと息をつく。
次に俺は、その場に座り込んですすり泣いている赤毛の少女に、視線を向けた。
「…嘘よ……!クエイト様が、クエイト様が…!そんなはず、ないわ…!」
……よほど、依存していたのか。
彼女は何度も、「クエイト様」と繰り返す。
愛する主人に捨てられた悲しみを、認められない。
…それはとても、よくある光景だった。
大きくウェーブのかかった腰まである赤髪を震わせて、少女はぼろぼろと涙を流す。
俺はその華奢な背中へ、口を開いた。
「……いつまでもそこで、泣いていてもらっては困る。さっさとその派手な着物を脱げ」
その言葉に、彼女はバッとこちらへ振り返る。