若き店主と囚われの薔薇
「…おはよう」
起き上がると、辺りを見回す。
既に他の子供達は起きている様で、皆外に出ているのか、姿がなかった。
顔を洗いに行っているのだろう。
どうやら、テンは私を起こしに来てくれたらしい。
「…ありがとう、テン」
まだはっきりしない頭でそう言うと、テンは嬉しそうに「うん」と笑った。
…あれから、五日ほど経っただろうか。
私は結局、エルガが営むこの奴隷屋で、日々を過ごすことにした。
自分がこれからどうするのか、どうすればいいのか。
決められていないこと、考えたくないことは、まだたくさんにある。
ただ心の中にあるのは、もう一度あの方にお会いしなければならない、という漠然とした思いだった。
帰りたい、顔が見たい、声を聞きたい。
けれど、ここがどこなのかも知らない私には、クエイトの邸へたどり着くための術すらもわからないのだ。