若き店主と囚われの薔薇
ただ流されるままに、ここにいる。
そんな私に、店主であるエルガは、ひとつだけ役割を命じた。
『毎日昼過ぎになったら、近くの井戸へ行け。このバケツに水を汲んでこい』
最初は、何故私が、と思った。
彼が言うには、水のたくさん入ったバケツを持ってテントに戻るには、他の子供達ではまだ力が足りないから、らしいけれど。
実際に四日間、テントと井戸を往復すると、気づくことがあった。
まず、テントから井戸へ行くには、それなりに距離がある。
だからこそ疲れるのだが、私が井戸へ水を汲みに行っている間に、客が来ている場合があるのだ。
テントへ戻った頃には、客は既に帰っている。
できればあやしげな客には会いたくない私に、それは好都合だった。
店主のエルガに関しては、よくわからないひとだと思った。
子供達が懐いているのを見ると、優しい人間なのだと思う。
最も、ここの他にも存在するらしい奴隷屋の店主が、一般的にどのような人間なのかもわからない私には、比較のしようがないのだが。