若き店主と囚われの薔薇


何より、私がいちばん驚いたのは、彼が何も訊いてこないことだった。


エルガ・ラルドスというこの男。

私に今まで何があったのか、どういう人に仕えていたのか、何も訊いてこない。

もちろん、自分のことも話さない。

何かと私の世話を焼いてくれるテンに、『エルガはいつもああなのか』と訊くと、小さく笑って頷かれた。

テンは、色々と事情があってこの店へ来たらしいが、そのことについて、エルガに尋ねられたことは一度もないという。


『ぼくたちは、エルガの売り物だから。エルガにとっても、ぼくたちはそれだけなんだよ』


つまりは、必要以上に干渉しないし、させないということだ。


それを訊いて、残酷なひとだ、と思った。


比較のしようがないのは、私自身に他の奴隷屋で過ごした経験がないからだ。

ここ以外の奴隷屋で過ごしたことのある他の子供達が言うには、『エルガほど優しい店主は見たことがない』だった。


子供達があんなに懐くのも、頷ける。

けれど、彼に対して良い気持ちは湧かなかった。


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