若き店主と囚われの薔薇
優しい、男。
それと同時に、奴隷屋の店主でもある。
『出ていきたいなら、出て行けばいい。俺は止めない』
前に、彼が私に言った言葉を思い出す。
目を細めて子供達にパンを配る彼は、ときにあんなにも冷たい目をして、冷たい言葉を放つのだ。
テンと井戸へ向かうと、案の定エルガと他の子供達がいた。
私に気づくと、子供達は「おはよう」と言って手を振ってくる。
エルガと目が合うと、呆れた顔をされた。
「そろそろ、時間通り起きることに慣れろ」
仕方ないじゃないか。
前にいた邸では、昼も夜も同じだったのだから。
彼の部屋だけが、私の世界の全てだった。
外の世界が昼だろうが夜だろうが、私には関係なかったのだ。
心の中で言い訳を並べるが、口にはしない。
私は黙ってエルガの横を通りすぎると、井戸へと足を進めた。