若き店主と囚われの薔薇
水の汲まれたバケツには、ゆらゆらと水面が朝の空を映している。
それを見つめながら、私は目を細めた。
…エルガは、よくわからないひと。
優しくて、残酷なひと。
まるで、愛しいあのひとのようだと思った。
*
「ロジンカ」
エルガの奴隷屋へ来て、十日目の晩。
食事の時間に、エルガが私の名前を呼んだ。
「…何?」
エルガは普段、私達が食事をしているときは、椅子に座って見ているだけ。
私達の食事が終わったあとに、彼のテントで食べているらしい。
話しかけられたことに少しばかり驚きながら、私は彼へ視線を向けた。
「…お前のその名前は、インカローズの別名だろう」
…驚いた。今度こそ。
彼が、私に私のことを話そうとするなんて。
エルガは相変わらず、何を考えているのかわからない、冷たい顔をしている。
私は、感情の機微を悟られないよう表情を誤魔化しながら、エルガを見つめ返した。