若き店主と囚われの薔薇


水の汲まれたバケツには、ゆらゆらと水面が朝の空を映している。

それを見つめながら、私は目を細めた。


…エルガは、よくわからないひと。

優しくて、残酷なひと。


まるで、愛しいあのひとのようだと思った。






「ロジンカ」


エルガの奴隷屋へ来て、十日目の晩。

食事の時間に、エルガが私の名前を呼んだ。


「…何?」


エルガは普段、私達が食事をしているときは、椅子に座って見ているだけ。

私達の食事が終わったあとに、彼のテントで食べているらしい。

話しかけられたことに少しばかり驚きながら、私は彼へ視線を向けた。


「…お前のその名前は、インカローズの別名だろう」


…驚いた。今度こそ。

彼が、私に私のことを話そうとするなんて。

エルガは相変わらず、何を考えているのかわからない、冷たい顔をしている。

私は、感情の機微を悟られないよう表情を誤魔化しながら、エルガを見つめ返した。



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